2000年代後半頃から登場した映像制作用途向けリモートカメラ(PTZカメラ)は、様々な技術革新(高画質化、IP伝送対応、AI自動追尾)や人手不足による省人力化対応、オンラインイベントやハイブリッド会議の普及に伴い、急速に需要が高まっています。しかし、「どのメーカーのどの機種を選べば良いのかわからない」というお悩みをお持ちの方も多いのではないでしょうか。
リモートカメラは、設置場所や用途によって最適な機種が大きく異なります。適切なカメラを選ぶことで、映像制作の効率は劇的に向上し、より高品質な映像コンテンツを届けることが可能になります。
本記事では、リモートカメラの基本から最新トレンド、そして主要メーカーの代表的な機種とその特徴を、利用シチュエーションに合わせて分かりやすく解説します。
目次
1. リモートカメラの基本
2. リモートカメラの最新トレンド
3. 主要リモートカメラメーカー5社の特徴と代表機種
4. まとめ
1. リモートカメラの基本
リモートカメラとは、その名の通り「遠隔(リモート)で操作できるカメラ」のことです。「PTZカメラ」とも呼ばれ、以下の3つの基本的な遠隔操作機能を備えています。
- P(パン): カメラを水平方向(左右)に振る操作
- T(チルト): カメラを垂直方向(上下)に振る操作
- Z(ズーム): 被写体を拡大・縮小する操作
これらの操作を専用のコントローラーやPCソフトウェアから行うことで、カメラのそばにオペレーターがいなくても、様々なアングルからの撮影が可能になります。
リモートカメラ導入の主なメリット
- 省人化・コスト削減: これまで複数のカメラマンが必要だった現場も、1人のオペレーターで複数台のカメラを操作でき、人件費や配置の手間を削減できます。
- 設置場所の自由度: 天井や壁面など、人が立ち入れない場所にも設置可能。俯瞰映像やこれまでになかったアングルからの撮影を実現します。
- 撮影対象への配慮: 議会や講演会、セミナーなどで、カメラマンの存在が登壇者や聴衆の集中を妨げることがありません。自然な雰囲気のまま撮影が可能です。
このようなメリットから、リモートカメラは企業の会議室やイベントホール、教育機関の講義室、医療現場、議場など、多岐にわたるシーンで活用が広がっています。
2. リモートカメラの最新トレンド
最新のリモートカメラのトレンドは「AI」、「IP伝送」、「マルチインターフェース/プロトコル化」です。
リモートカメラの技術は日々進化しています。ここでは、映像制作の現場を大きく変える最新のトレンドを3つご紹介します。
2-1. AIによる「自動追尾機能」の進化
被写体をカメラが自動で追いかけてくれる「自動追尾機能」は、AI技術の進化により、その精度が飛躍的に向上しています。
従来の自動追尾は、動きの予測が難しかったり、他の人物を誤認識したりすることがありました。しかし最新のAI搭載モデルでは、骨格情報や顔認識によって個人を特定し、振り向いたり歩き回ったりしても高精度で追尾し続けます。これにより、ワンマンオペレーションでも、まるでプロのカメラマンが撮影したかのような自然な映像制作が可能になります。
2-2. 配信の自由度を高める「IP伝送」
従来、カメラからの映像はSDIやHDMIといったビデオケーブルで伝送するのが一般的でした。しかし現在では、LANケーブル1本で映像・音声・制御信号・電源供給(PoE)まで行える「IP伝送」が主流になりつつあります。
特に注目されているのが、以下の伝送プロトコルです。
- NDI(Network Device Interface): 米NewTek社が開発した、高品質・低遅延な映像伝送を実現するプロトコル。同じネットワーク内にあるNDI対応機器を自動で認識し、簡単に連携できます。最新のNDI HX3を用いれば更なる高画質・低遅延のIP伝送が可能です。
- SRT(Secure Reliable Transport): インターネットのような不安定な公衆回線でも、パケットロスを補正し、安定した映像伝送を可能にするプロトコル。セキュリティも高く、安全な遠隔地への映像伝送に適しています。
これらのIP技術により、配線のシンプル化や、場所を選ばない柔軟な映像配信ワークフローの構築が可能になっています。
2-3. 様々なシステムに対応可能なマルチインターフェース/プロトコル対応
物理的なインターフェースにSDI・HDMI以外にもUSB・SFP+(光信号)を搭載したり、IPプロトコルも前述のNDIやSRTに加えてRTSPやRTMPに対応したりと、放送・ネット配信・監視用途など様々なシステムに柔軟に対応する、マルチインターフェース/プロトコル化が進んでいます。
3.主要リモートカメラメーカー5社の特徴と代表機種まとめ
ここからは、国内外の主要なリモートカメラメーカー5社を取り上げ、それぞれの強みと代表的な機種を複数ご紹介します。
3-1. Panasonic(パナソニック)|放送品質の安定性と信頼性
リモートカメラの先駆的メーカーで、長年の実績を持つパナソニックは、その高い信頼性と安定性、そして現場のニーズに応える豊富な製品ラインナップが魅力です。貴重な屋外モデルもライナップしトップシェアメーカーとして地位を確立しています。
■代表機種
AW-UE160W/K

スタジオカメラに匹敵する高画質と表現力を備えた4Kハイエンドフラッグシップモデル。位相差AFによる高速・高精度なフォーカスを実現します。コンサートホールや大規模イベントなど、最高品質が求められる現場に最適です。
カメラ本体にAIプロセッサを内蔵し、任意の構図で最大3つプリセット登録が可能な高精度オートフレーミング機能*で、自動で高品位な映像撮影を実現します。
*オートフレーミング機能は、カメラファームウェアとMedia Production Suiteのアップデートが必要な場合があります。
カメラ本体内のプロセッサを使って人物の検出処理を行いフレーミングの操作・指示はMedia Production Suiteから行います。
AW-UE80W/K

4K/60p、広角74.1°、光学24倍ズームとバランスの取れた4Kスタンダードモデル。
その場になじむ小型・ドーム型デザインかつ静音設計のダイレクトドライブモーターでリモカメの懸念事項である動作音の心配は不要。
NDI/SRTにも対応し、中〜大規模の会議室やホール、ハイブリッドイベントなど幅広い用途で活躍します。
AW-UE20W/K

広角71°レンズとUSB出力を備え、Web会議システムとの連携も容易なエントリーモデル。
小〜中規模の会議室や教室を手軽に高画質化したい場合におすすめです。
USBのほかSDI/HDMI/IP出力にも対応し、様々なシステムに対応するコスパの高い機種です。
AW-UR100GJ

業界初IP65対応、4K60p撮影可能な屋外対応リモートカメラです。
光学24倍ズーム/水平74.1°のレンズを搭載し、広い会場の俯瞰映像から、被写体のズームまでこの1台で幅広いシーンを撮影することが可能です。
撮影ポールや天吊りなど、風揺れの影響を大きく受ける屋外対応リモートカメラで課題で低周波大振幅の揺れを解消するため、光学式画揺れ補正(OIS)、電子式ROLL補正(EIS)、パンチルト式画揺れ補正(D.I.S.S.:Dynamic Image Stabilizing System)の3つの揺れ補正を搭載しています。
3-2. SONY(ソニー)|卓越した映像表現力とAI技術
放送・映像制作機器メーカーのトップランナーとして長年蓄積してきた技術とノウハウで、高品位なリモートカメラをラインナップするソニー。卓越したイメージセンサー技術と映像表現力、そしてAIオートフレーミングが最大の強みです。
【代表機種】
BRC-AM7

“PTZオートフレーミングカメラ”と銘打って登場したBRC-AM7はソニーが誇るリモートカメラのフラッグシップモデルです。内蔵されたAIアナリティクスが被写体を自動で追尾し、自然な構図で自動調整しながら撮影を行います。骨格検出、頭部位置検出、特徴マッチングなどを行うことで高精度で常に自然な画角を維持。微細に動きには反応せず、まるでカメラマンのようななめらかで自然なカメラワークを実現しています。
映像品質も高性能イメージセンサーと画像処理エンジンで4K60pの高解像度かつ低ノイズの撮影を実現。独自の電子式可変NDフィルターを用いれば被写界深度の浅い映像表現が可能で、幅広いシーンで活躍します。
SRG-A40/12

昨今のPTZオートフレーミングカメラの先駆け的存在のSRG-A40/12は、複数人フレーミングや顔登録、追尾範囲指定、固定画角ポジションなどで多様なニーズに対応したリモートカメラです。
金額も50万円程度と複数台での利用を視野に入れるならこの機種。スタンダードでありながら非常に高機能な本モデルはあらゆるシーンでリモートカメラを選択する基準になる存在です。
FR7

フルサイズセンサーを搭載したレンズ交換可能な唯一無二のリモートカメラ。
高感度、低ノイズ、美しいボケ表現で他のリモートカメラとは異なる、音楽ライブやスポーツ中継などの制作環境で真価を発揮します。レンズ交換により、より幅の広い映像表現が可能となります。
更にファームウェアVer3.00からPTZオートフレーミングにも対応し、舞台撮影のオートフレーミングや高品位な映像でプレゼンを配信するなど活用の幅が広がりました。
3-3. Canon(キヤノン)|光学技術の粋を集めた高画質と屋外対応
カメラメーカーとして長年培ってきた高い光学技術は、リモートカメラにも惜しみなく投入されています。いわゆる”お天気カメラ”で培われた技術とノウハウが詰め込まれた屋外対応モデルのラインナップは大きな強みです。
【代表機種】
CR-N700

4K60p/4:2:2 10bit出力対応の広角25.5mm・光学15倍ズームかつNDI、SRT、RTMP、RTSPのマルチプロトコルにも対応し、幅広いシーンで活用出来るキヤノンのフラッグシップモデル。
外部PC・サーバーが不要な自動追尾アプリケーションも本体に内蔵。更に有償ライセンスを追加すればより高機能の自動追尾を実現します。
CR-N300

コンパクトな4K30pモデル。4K時広角29.3mmからの光学20倍のズームレンズ搭載で幅広いシーンをカバー。SDI/HDMIに加えUSBも備えているマルチインターフェースモデルはWeb会議にもダイレクトに対応します。
コストバランスにも優れたCR-N300は、マルチカメラ収録の現場・固定設備に最適な機種といえるでしょう。
CR-X300

キヤノンの”お天気カメラ”の技術が注がれたIP対応の4K屋外リモートカメラです。
4K30p・IP65・光学20倍+デジタル20倍ズームレンズ搭載かつ屋外カメラでは小型・軽量(約7.0kg)のCR-X300は、少人数でのマイナースポーツ中継や屋外イベント会場でのライブ撮影で真価を発揮します。
【CR-X300を活用したリモートプロダクションの事例】
3-4. Bolin Technology(ボーリンテクノロジー)|過酷な環境に応える堅牢な屋外カメラのスペシャリスト
放送品質のPTZカメラに特化したアメリカを本拠地とする2015年設立の新興メーカーです。
特に、放送局レベルの画質と、屋外の過酷な環境に耐える堅牢性を両立したい場合に有力な選択肢となるブランドと言えます。
【代表機種】
EXU248F

ソニーの1.0インチ4Kカメラブロックを搭載した数少ない屋外リモートカメラ。
IP67対応・48倍ズーム・IP/SDI同時出力で現場に合わせた柔軟な運用を実現します。
風荷重耐久性30~60m/s、動作温度範囲-40℃~+60℃、メカニカル光学式手ブレ補正機能搭載で過酷な屋外環境でも高品位な映像を提供します。
更にNDIに対応したモデルもラインナップしておりLANケーブル1本で映像・音声・制御・電源(PoE++)をまかなうことが可能です。
EXU230H

こちらもソニーのフルHDカメラブロックを搭載した屋外リモートカメラで、EXU248FのフルHD版といえるモデル。IP67対応で光学30倍+デジタル12倍ズームレンズを搭載しており、過酷な屋外撮影に柔軟に対応します。
EXU248F同様に、持ち運びに便利な取手が装着されており、普段はスタジオカメラとして運用し、屋外イベントなどの際にはスタジオから持ち出して使用するなど、幅広い運用スタイルに対応しています。
バーチャルプロダクションで用いられるカメラトラッキングデータの通信プロトコルである「FreeD」にも対応しており、容易にVR/ARシステムを構築することが可能です。
3-5. AVer(アバー)|教育・ビジネス現場に強いAI自動追尾の先駆者
教育市場やビデオ会議市場で高いシェアを誇り、高精度なAI自動追尾機能をいち早く製品に落とし込んできたメーカーです。
【代表機種】
TR335

4K60p・光学30倍ズームレンズ、高度なAI自動追尾機能を搭載したリモートカメラです。
AI自動追尾機能は3つのモードを搭載。
プレゼンターモード、ゾーンモード、ハイブリッドモードで主に講義収録・配信や舞台撮影のワンマン収録など、業務用途での撮影シーンにおいて活躍するモデルです。
こちらも他メーカーと同様にSDI/HDMI/IP/USBに対応し、接続するシステムを選びません。
そして音声トラッキング*にも対応しており複数話者のいるWeb会議や講義配信などで、マイクと連動したカメラのプリセット自動呼び出しが可能となります。
*音声トラッキングには PTZ リンク または MT300(N) が必要です。
PTZ330UV2

TR335のAI自動追尾機能を省いた4K60pモデルでその他の機能はTR335とほぼ同等。
自動追尾が不要なシーンでコストを抑えたシステム構築が可能となります。
4.まとめ
急速に需要が拡大しているリモートカメラ(PTZカメラ)について、その基本的な機能やメリットから、AI自動追尾、IP伝送といった最新トレンド、そしてパナソニック、ソニー、キヤノン、Bolin、AVerといった主要メーカー5社の特徴と代表的な機種まで、幅広く解説しました。
ご紹介したように、リモートカメラは機種によって、画質、ズーム倍率、追尾機能の精度、対応するインターフェースやプロトコル、さらには屋外対応の堅牢性まで、その特徴が大きく異なります。
会議室での利用、教育機関での講義配信、大規模なイベントホールでの中継、あるいは過酷な環境下での屋外撮影など、ご自身の利用シーンや解決したい課題(省人化したい、品質を上げたい、特定のシステムと連携したい等)を明確にすることが、最適な一台を選ぶための最も重要な第一歩となります。
技術革新は日々進んでおり、リモートカメラが実現できる映像表現の幅は今後さらに広がっていくと見込まれます。ただ、様々なメーカーや機種が乱立する中で、最適な一台を選定するためにはある程度の経験やノウハウが必要になります。私達は個々の現場の状況や運用スタイルにあわせてベストな機器やシステム構成を個別にご提案いたします。
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